「そろそろ潮時かもしれない…」
やがて、長い沈黙を破ったのはクロだった。
えっ、とあたしはクロを見上げる。
クロの唇が小刻みに震えていた。そのくせ額は汗で滲んでいる。
七瀬先生に、とクロは頼りない声でいった。
「七瀬先生にバレた」
思いがけない言葉に一瞬耳を疑った。
「…どういうこと?」
睨みつけるあたしにクロは怯えたように目を伏せる。まるで怒られた子犬のように背中を丸めていた。
「俺つい先生って呼んじゃって…生徒だってバレたかもしれないんだ」
彼がとんだ過ちを冒したのはアキラではなかった。
今にも気が遠くなりそうだ。
後悔が激しく波寄せる。
クロを一人にするんじゃなかった。


