授業が終わって、あたしはクロの前に座った。


「ごめんね、クロ」


クロは顔を上げようとしない。


「でもあたし、やっぱりクロが七瀬先生に気持ち伝えるなんてそんなことできないと思ってる」


日に焼けたクロの薄茶色の髪が風で少し揺れる。


「クロは優しいから七瀬先生の幸せを壊すなんてそんなことできないでしょ?」


ぴくり、とクロの指が動いた。


「何年一緒にいると思ってんの、クロ。顔を上げて」


あたしが頭を撫でてやると、クロはゆっくりと顔を上げた。

その顔は今にも泣きそうだ。


「涼子。俺どうしたらいいの?」

「諦めよ」

「そんな簡単に言うなよ」

「簡単じゃないけど諦めるしかないでしょ」

「涼子は諦められるの?」

「分からない」

「俺だって分からないよ。涼子は今まで先生を忘れようとして色んな男と付き合ったけど、結局どれも続かなかったじゃん。やっぱり諦めるなんて無理なんだよ」