大丈夫だ。


もし七瀬先生に生徒だと知られても顔は見せていないのだから俺だとは分からないはずだ。

そうだ、落ち着け。
落ち着くんだ。

俺だと気付かれていない。


…いや、気付かれていませんように。


もはや神頼みになってしまったが、足が竦んでしまい誰かに縋らないと立つこともままならない。

こうなってしまった以上これからどうするか考えなきゃいけないと思うと気が遠くなりそうだった。

七瀬先生は俺に言った。


ーーどうしてこんなことするの。


俺は何やっているのだろう。

自分が幸せになるために七瀬先生を閉じ込めるという道を選んだはずだった。

それが今、鏡に映る自分は想像していた幸せとかけ離れた姿を映し出している。

心の奥に閉じ込めたはずの後悔が激しく波寄せる。

俺は良心と邪心の間で葛藤していた。