ねえ、と声がした。 あまりにも消え入りそうな小さな声だったので俺は空耳かと疑った。 「…いつになったら出してもらえるの」 けれど空耳ではなく、ドアの向こうからその声が聞こえた。 覇気を失った掠れ気味の声は何の感情も読み取れない。 どう答えるべきかと言葉を選んでいると、七瀬先生は続けた。 「ーー…しょう」 えっ、と俺はドアに向けて耳を寄せる。 「…あなた、本当はこんなことしたくないんでしょう」 どくん、と鼓動が大きく高鳴った。 瞬時に口の中が乾き、何度も生唾を飲み込んだ。