「何かさあ、今日歩いてばかりじゃない?

さすがに、ちょっと疲れてきたよ…」


小夜子が愚痴を言う気持ちも分かる。


安曇野は交通機関がほぼ無い為、ひたすら歩く以外に移動手段がかった。

曇っているのが、せめてもの救いだ。


20分程都野市方面に坂道を歩いた所で、道端に寺が見えてきた。

私は疲れて俯いきながら歩いている小夜子に、声を掛けた。

「小夜子。
あれ…あれが、正徳寺じゃない?」


白い土壁に囲まれた、比較的小さな寺。

人口を考えると、余り大規模な寺は必要ないのだろう。


寺の門をくぐると、当分改修もされた様子もない古びた本堂が、目の前に建っていた。


私達は本堂左側の、小さい社務所に向かった。

立て付けの悪い、引き戸を開けて呼び掛けた。

「こんにちは」


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