もうなにがなんだかわからない。 口を挟む隙もなく、さっさと用件だけ言って去って行ってしまった。 人波に紛れたその男は、もはや目で追うことすらできず、もちろん走って追い掛けられもしない。 本当になんだったのだろう…。 ふと手元に乗せられた袋に目をやる。 真ん中に留められたテープはしたままで、間からこっそりと中を覗いてみた。 『あ…』 それはあたしが求めていた、あの最新刊で。 もしかしたらあの男はあたしの目の前でこの本を手にした人なのかもしれない、なんて考えが浮かんだ。