「…あいつはさ」
「え?」
「あいつは、野球だけが取り柄みたいなやつだったんだ。
K大でも結構有名なエースでさ」
吉川優は自分の左手に右手を重ねて膝の上に軽く肘をついた。
私に話しかけながら、目線はバットを振る隼人に注がれている。
「…K大?」
流歌さんの彼氏と同じ大学だったんだ…。
歳から考えて…流歌さんの彼氏が1年のときに3年だったのかな。
「ずっと続けてれば、プロだって夢じゃなかったかもしれない」
「なら、なんで辞めちゃったんですか…?」
バットが奏でる金属音がやけに遠く感じた。
吉川優は口を開かない。
「これからも、あいつのことよろしくな。
夏花ちゃん」
吉川優の笑顔は、すごく優しくて、この人の名前にぴったりだと思った。
今は、詮索するのはやめておこう。
吉川優の目を見てなぜか、そう思った。

