私がゆっくりとキョリを縮めるのを、ジッと捉えたまま待ち構える彼。




この瞬間は唯一、彼が映すモノは私ひとりだけ・・・




だからこそ、歩く速度は決して速めようとシナイ。



一歩ずつ着実に、ゆっくりと、彼の許へと歩み寄って近づいて行く。




何よりも大切なのは、このトキを楽しんでいるように見せる演技力で。



いかに笑顔を貼り付けて、それが不自然でないかが重要だ。




少しずつ、でも着実に、貴方とのキョリが縮まっていく度に。



「っ・・・」


貼り付けた笑顔の裏では、キュッと胸が締めつけられて、苦しさを覚えるけれど。




演技中の身である今は、ソレを晒せない…――




ゲーム中だからと言い聞かせて、ムリヤリに感情を押し殺すの。



こんな私の感情は、社長にとっては煩わしいモノになるから…。




これが貴方と交わした、アノ契約を忘れないための努力でもあり。



そして貴方をキライになれるようにと、密かにおまじないを唱えるの。




本当は、全身全霊で彼を求めているコトに気づかれないように――