初夏の始まりを告げる、どこか生暖かい風が頬を掠める中で。


身体がピタリと密着していようとも、体温だけは急低下していく。




決して見えナイ、私たちを隔てる大きな氷壁によって・・・




だけれど鼓動の高ぶりは、一向に収まる気配がナイという矛盾さ。


それほど拓海のすべてには威力があって、絶対的なモノだから。



留まらない心拍数の速さに乗じて、しがみつきたい衝動が迸る。




「・・・っ・・」

そんな私を制止させるのは、脳裏を過ぎる美麗な嘲笑と言葉で。



この浅薄すぎる考えは、まやかしに絆されたモノだというのに――



後藤社長と婚約者という陰影が、纏わりついて離れないうえ。



導き出されるのは、失望というフレーズだけなの・・・





「ウソつき・・・ッ…」



「だから・・・どうして俺がウソつきになる?」

溜め息をひとつつくと、訝しげな声色で尋ね返された。



「うそ・・つきっ・・」

ドンドンと眼前の胸を叩いて、何度も反芻する私。


同時にやり場のナイ真実を、パンドラの箱へと押し込めた。




すべてを口にしてしまえば、ただの惨めな女じゃない・・・



飽和状態のパンドラの箱はもう、壊れる寸前だというのに――