絶望の淵に立つ私の耳に届いたのは、甘くて優しい拓海の声で。


崩壊した涙腺は貴方を求めて、幾重にも涙を形成していく。


後藤社長の指に触れられるのも、一切阻むかのように・・・




「フッ・・・」

嘲るような一笑のあとで、その手から開放された私。



ウィーン――

直後にパワーウィンドウの動く音が、静まり返る車内に響く。


涙を拭うコトすら構わず、すぐさま身体を背後へと向き直った。




「っ・・・」

追い求めていた姿が視界に入った瞬間、胸がグッと締めつけられる。



今朝と変わらないスタイルで、こちらを捉えているブラウンの瞳。


見上げるようにして視線を追っていながら、決して交わるコトは無い。


その瞳が映しているモノは、私の後方の人物だから・・・



夜へと足を踏み入れた夕闇の空模様が、私たちの状況を表していて。


混ざり合わない景色のように、辺りは重苦しい雰囲気で包まれた。




「東条くん…、蘭を返せとは随分な言い方だね。

俺のモノを如何こうして、何が悪い――?」


「ッ――!」

背後から届いた声で、背中にツーと冷たいモノが流れていく。



挑戦的というか、排他的というか…、直球の先制攻撃だから。


一分の中に抱いてしまう期待と安堵感を、ポキンと手折ってしまう。