彼の笑みには、凍てつかせる程の力が備わっていて。


戦意など、いとも容易く喪失させられてしまう。


それどころか、キモチがどんどん萎れそうになるの。


辛苦すぎて、避難地さえ用意されないから・・・




「これ以上、無駄な期待を抱くのは止めろ。

東条君の言動に、真実を見た事はあるのか?」


「ッ・・・」

抑制する声で、自分の置かれた状況に引き戻された。



口元を緩ませながら辛辣という、矛盾した言動の彼。


その拍子に駆け巡っていく、先ほどの言葉たち。


あんなに泣いて、泣き叫んでいたのに・・・




“拓海の婚約者は私…”



「っ・・・」

涙腺はまたしても、勝手に緩んでしまう。



狭い車内で歪み始めた、無色透明な世界を濁す涙。


遠慮がちに視線を落とし、後藤社長からの視線を遮った。


涙が流れる度に、拓海を忘れてしまえたら楽なのに・・・




クイッ――

顎を引き寄せられると、再び視線が交わってしまう。



「そんなに…、アイツが好きか?」


「・・・っ・・」


簡単ながらも難しすぎる答えを、言えナイ・・・