拓海の婚約者は、この私なのよ――


本妻に先手を打たれて、返す言葉が見つかると思う?



せめて泣きたいのに、一向に涙腺は緩みそうもなくて。


表現し難い受難に、泣き方すら忘れていきそうな私。


2人の鋭い視線を前にして、萎れる寸前の花のよう。


感情もこのまま、枯れ果ててしまうのかな・・・




後藤社長とは絶対に、結婚しない。


どうすれば、お断り出来るだろう?


窮地だとしても、拓海を守り抜く。



「っ・・・」

一世一代の決意は、砂にサラリと攫われかかっていて。


どこにも行き場のナイ苦しさが、覆い被さっていた。




「はぁ・・・

これでも私、ハッキリ言ったつもりなのよ…」

何も発すコトなく前方を見ていると、ひとつ溜め息をつかれた。


どうやら私が、意味を理解出来てイナイと思ったようだ。



「蘭さん…、こう言えば理解頂けるかしら?

貴方と拓海の人生が通じるコトは無いの。

私と雅貴という存在が、貴方達の傍にあるから。

何をどうしようとも、変わりはしないのよ?」


「っ・・・」

止めの攻撃とばかりに、鮮やかな嘲笑を向けられた。



拓海へのキモチを、寸断させるかのように・・・