バタンッ――

秘密の部屋の重厚な扉が、遮蔽するように閉まった。



退出は可能であっても、彼の指紋無しでは入室は叶わない。


これでもう私は、歩を進めるだけ・・・




最後だからと、ザッと社長室全体を見渡してみた。


社長のデスクには、無造作にジャケットが置かれていて。


先ほどの行為の始まりを、瞬時に思い起こさせてしまう。



「ッ・・・」

声にならない想いが、グッと込み上げる。



今まではずっと、彼の背中を見届ける日々だった。


ベッドに取り残された私には、虚しい余韻が渦巻いていて。



焦燥感と刹那を抱いて、啜り泣く部屋だったのに・・・




「ゴメンね・・・」

ポツリと呟くと、虚しく響き渡る謝罪の言葉。



まさか私が貴方を、置き去りにするなんて――



眼前に広がるモノは、すべてを無に変えていて。


運ばれていく最中の景色とは、まるで違う社長室。



無能秘書だったけれど、社長の拓海と同じトキを重ねていて。


仕事の痕跡などが、少なからず残されているというのに。



主が不在となった部屋には、それすら感じられない。