私はいつも通り、社長の後ろをついて行く。
貴方とは一生埋められないキョリを開けて・・・
ヒシヒシと感じる視線や、中傷の言葉も気に留めなかった。
ううん…、今は気にならないの。
それより、社長の背中を見つめていたい――
周りなど、どうでも良いほどに・・・
そうして、2人でエレベーターに乗り込んだ。
密室空間になると漂う、鼻腔をふわりと掠める香り。
ホワイトムスクの甘い香りに、やっぱり惑わされる。
手錠まがいのリングが、戒める中でも・・・
この沈黙も、甘い香りも、大事な思い出になるから。
一分一秒たりとも、ムダにしたくない――
エレベーターを降りると、社長室へと共について行く。
これが最後になる、カバンの授受のために。
「社長…、どうぞ――」
「あぁ・・・」
遥か頭上からブラウンの瞳に、ジッと凝視されても。
震える声と手で返すコトで、私は精一杯だったの。