何事もなく、日々は過ぎて行った。

第二の小川沙紀と言った人物は現れなかったし、自動調理マシーンの使用方法はいたって簡単だったので、特に苦労することはなかった。

山口先生以外の授業でも、指名されることは殆どなく、当てられても無視しておけばよかった。

しかし、この生活に慣れて来たころ、事態は急変した。

ピンチなのは自分だけではないようで、まわりの奴等も皆、目の色を変えている。

テストがあるのだ。

小川沙紀の情報によると、ここのテストはかなり難しいらしい。

そんな難しいテストに対して周りが焦り出している中でも、近藤拓郎は平然としていたそうだが。

皆の授業態度が変わり出したのが今から十日前、すなわちテストの二週間前だ。

今までは山口先生や校長が助けてくれるだろうと楽観し、小川沙紀から聞いたような近藤拓郎を演じていたのだが、今日、さすがにマズいと思い、校長室へと赴いた。

中にいた校長に経緯を話す。

「そうでしたね。
四日後はテストです。」

「それで、僕はどうしたらいいんでしょう。」

「それは、自分が頑張るしかないのではないでしょうか。
テストですし。」

柔和な声で言い放ったが、この一言で、二度目に顔を合わせたときに少し変化した校長の印象が一気にファーストインプレッションまで引き戻された。

「普通ならそうかも知れませんが、僕の場合…」

「確かに、今までずっと教育を受けて来た他の生徒に比べ、君は明らかに不利です。
しかし、君は何らかの努力をしましたか?」



していない。

「君には生き残ろうとする努力が足りない。」

そうは言われても、危機感がいまいち沸かないのだ。

「まあ、意地悪ばかり言っていないで、助けはしますが、最終的にはあなたが頑張るしかないのですよ。」

そう言って校長は机の中のコンピュータを操作し、そこにズラッと文字列を表示させた。

「四日間で全て覚えて下さい。
論述の解答は要点を押さえた上で私が変えてあります。
もし全て覚えられたらの話ですが、各教科、適当に一、二問間違えておいてください。
記憶に自信がなければ全力で臨んでください。」

テストの解答らしかった。