「…痛かっただろ?」

眠っている愛の掌を見て、

櫻井はそっと呟いた。

爪が食いこんで、

血がにじんでいた。

「もっと、早く行けば…っ。」

激しい、後悔の念。

彼女を、守れなかった。

守ってやれるのはオレだけだと、

自負していたのに。

いざとなったら、

間に合わなかったじゃないか。

ただ彼女を抱きしめただけ。

かけてやるべき言葉も、

見つからなかった。

「指輪……。」

愛の手から指輪が

なくなっていることに、

櫻井は気付いた。

内心、ホッとしていた。

これで自分の気持ちに

ブレーキをかけることも、

偽る必要もないのだ、と。

本当はもうずっと前に気付いていた。

自分の中に宿る

温かな気持ちに。

けれど、略奪愛なんて

自分は好まない。

だから、気付かないフリして、

そのまま

通り過ぎてしまおうとした。

でも、無理だった。