「う-ん、これもいいんだけどなぁ…。」

かれこれ10分、

いや、15分くらいか。

メニューと睨めっこを

続けるばかりで、

一向に注文する気配がない

義彦を見て、

愛は気づかれないよう

小さくため息をついた。

「愛さんなら、どっちにします?」

「こっち、ですかね。」

「やっぱりそうですよね。

 じゃあこれにします。」

やれやれ、と愛は一息ついた。

この男、何を隠そう

愛の婚約者だった。

愛より7つ年上の29歳で、

とある会社の御曹司だった。

経済面でも安定した収入があり、

紳士的で、

さりげない気遣いもできる

大人の男。

しかし、優柔不断で

若干唯々諾々な面があるのが

玉に傷だった。

「すいません、こんな所で。

 せっかくのデートですし、

 もっといい所を

 予約したかったんですが。」

「構いません。

 いいお店じゃないですか。

 気取ってないお店の方が

 義彦さんとも話しやすいです。」

それを聞いて安心した、

とでもいうように

義彦は笑顔を見せた。