ウルは、落ち着きを取り戻せないまま、女性に連れられて街の中へと入った。
街は活気に満ちており、人通りが多い。
メイン通りと思われる広い道を横切り、少し細めの路地へ入ると、そこは先ほどの喧騒とは打って変わった静かな住宅街。
少し入り組んだ道を女性に付いて歩く。
半歩先を歩く女性は、時々ウルを振り返り、何かを口にしようとして思い留まり、小さく首を振った。
ウルは、あの川辺で自分に記憶がない旨を伝えている。
驚いた女性が、泣きそうな表情になりながらも、消えそうな細い声で「私の名前…は…、レナ……です…」とだけ呟いた姿が頭から離れない。
この時ほど、記憶をなくした自分を恨めしく思ったことは無かった。
「ここです」
女性、レナが足を止めた場所は、真っ白い壁に囲まれた共同住居。
レナといい、街並みといい、この建物といい。見るもの全てに、ウルは懐かしさを感じた。
─やはり、この街を知っているのか…。
それと同時に、はっきりと思い出せない自分に苛立ちを覚えてしまう。
カツカツと階段を上がり、二階へ行く。
三つ並ぶ扉の一番奥を開き、レナはウルを招き入れた。
「狭いですが、どうぞ」
レナの横をすり抜けて部屋へ入る直前、「ありがとう」と呟いたウルを複雑な表情で見送ってから、レナは扉を閉めた。
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