天候は、曇。
 今にも雨が降り出しそうな雲の下を、少し早めの速度で飛行するヴァルザック。

 雲の上に行かない理由は一つ。
 目的の街、グレイクレイが近いからだ。

 緊張のせいか、ウルの口数が減る。

 そんなウルに、ヴァルザックが小さく声をかけた。

『ウル……いきなりですまないが、俺が付いて行くのはグレイクレイまでだ……』

 突然の宣告に、大きく目を開くウル。

「え……? 何でだ? ザイルまで一緒に行ってくれるんじゃないのか?」

 ただでさえ、記憶がないまま知人に会うかもしれないという不安を抱えていたウルの表情に、更なる動揺が浮かぶ。

『そのつもりだったんだが……。
 すまない……』

 いつになく歯切れが悪いヴァルザックの言葉に、それ以上の追求が出来なくなる。

 沈黙が続く中、厚い雲によって日差しが遮られた暗い大地に、大きな街が姿を現し始めた。

 上流とは違い、同じ川だと思えないほど大きくなった川のすぐ隣に立ち並ぶ建物。
 街全体は円形で、中央の大きな時計台が印象的だ。

 ウルの中で、懐かしい思いが込み上げてくる。

 ─俺は、以前にも上空からこの景色を見た気がする……。

『ウル……あれが、グレイクレイだ』

 ヴァルザックの声が、妙にはっきりと耳に響いた。

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