一夜明けただけで、ヴァルザックの傷は信じられないほど回復していた。

「…お前、本当に怪我してたのか…?」

 思わずそう問いかけるウルの気持ちも分からなくはない。

『人間とは体の作りが違うのだよ』

「いや、作りが違うにも程があるだろ」

 ウルの突っ込みに、ヴァルザックは笑いを含めた声で答えた。

『まぁ、作り云々(うんぬん)は別として、そもそもの生命力の違いってトコだ』

「……ふぅん…。そんなもんなのか…」

 微妙な顔で呟くウルに、ヴァルザックは違う話題を振った。

『それより、すまなかったな。昨晩は結局飯食うどころじゃなかっただろ?
 朝食、魚でいい?』

 そう言い、人型へと姿を変える。

「あぁ……そりゃ良いんだが……。
 本当に大丈夫なのか?」

 問うウルに、軽くガッツポーズを向けるヴァルザック。

 自分の心配を余所に、元気が有り余っているかのように動くヴァルザックを見ていると、何となく無駄な心配をしているような気がしてくる。

 ─まぁ……、本人が大丈夫って言うなら大丈夫か……。

 ヴァルザックはドラゴンなのだ。
 あれだけの巨体なら、ウルよりも遙かに長い時間を生きてきたはず。

 自分の事くらい自分で分かるよな……。

 ウルは気を取り直すと火を焚き始めた。

 川の方では、ヴァルザックが軽快に水中から岸へ魚を弾き飛ばしている。

 どうやら、ずいぶんと大漁のようだが、後々にその大半を「食べきれない」という理由から川へ返す事となった。

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