あの瞬間。
 レッドドラゴンの首に牙を立てた瞬間、ヴァルザックはありったけの魔力をその中に注ぎ込んでいた。

 それはラウラの命を奪った時と同じ術。

 レッドドラゴンの体内に進入したヴァルザックの魔力が、内側からレッドドラゴンの生存機能を破壊したのだ。

『……力だけが物を言う戦いなんてねぇんだよ。俺の頭脳勝ちだったな』

 もう喋ることの無い赤いそれに小さく呟き、ヴァルザックは地面に横たわった。

 序盤に受けた傷が、思いの外深い。

 ズキズキと体の芯に響く痛みを堪えるように、堅く瞳を閉じる。

 そんなヴァルザックの耳に声が届いた。

「ヴァルッ! しっかりしろよ!
 大丈夫かッ?!」

 薄く目を開くと、そこには血相を変えて走り寄るウルの姿。

 ─……あー…そう言えば、このレッドドラゴン、そもそもはこいつを喰おうと声かけてきたんだっけ……?

 心配そうな表情で顔を覗き込むウルに、ヴァルザックが唸るように言った。

『喰って良い?』

「アホか」

 一瞬で切り返したウルの言葉が無性におかしく思えて、思わずヴァルザックは声を上げて笑い出した。

『ッハ! アハハハハハいてて……ッ』

 いきなり笑い出したヴァルザックを、怪訝そうな表情で見るウル。

「…笑うか苦しむか、どっちかにしろよ。
 心配して良いのか分からないだろ……」

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