「……グレイクレイまでは、どれくらいで着けるんだ…?」

 油断すると聞き逃してしまいそうな小さな声だったが、ヴァルザックは捉えた。

『そうだな……。この速度で行けば二日程で到着出来る』

「二日か……」

 ヴァルザックの答えを、ため息を含んだ声で復唱する。

『もう少し急ぐか?』

 スピードならまだ上げれるぞ?

 そう言ってスピードを上げてくれるヴァルザックの優しさを嬉しく思い、ウルの表情に少しだけ笑みが浮かぶ。
 だが、ウルはヴァルザックの申し出に首を振った。

「いや、いいんだ。グレイクレイには、もう少し落ち着いて行きたい」

『そうか』

 短く答えると、僅かに上げていた速度を落とす。

「悪いな…少しでも早く行きたいと言っていたのは俺自身なのに……」

 急げと言ったり急ぐなと言ったり……。
 ヴァルザックは呆れただろうか。

『気にするなよ』

 まるでウルの心を読んだかのように答えるヴァルザック。

『人間は、自分の力が及ばない所まで考えすぎだ。まぁ、考える生き物の性なのかもしれんが。
 特にお前は記憶も無くしてるし、何か考えてないと落ち着かないんだろうけど…。
 考えすぎるなよ? ハゲるぞ』

 最後の一言を冗談混じりに言う。

 ドラゴンとは、みんなヴァルザックのような性格なのだろうか……。

「そうだな、ハゲたら困る」

 笑いながら答えるウル。

.