目に飛び込んできたのは、ヴァルザックの予想を覆(くつがえ)すもので。

 思わず、息をするのも忘れてしまった。

 横たわる、ラウラの姿。

 遠目に見ても分かる。ラウラには、傷一つ付いていない。

 ラウラのいる付近の地面だけ、まるで何事も無かったかのように草が生えている。

 そこそこの術士でも、そんな器用な芸当は出来ない。

 無意識に、視線がウルの方へ移る。

 ウルは落ち着きを取り戻したのか、ゆっくりとした動作でラウラの元へ歩み寄っていった。

『ウル……一つ、聞いても良いか…?』

 極力平静を装って、ウルの背に声をかけるヴァルザック。

 ラウラの横で身を屈め、視線だけを向けるウル。

『お前、自分の意志で魔力をコントロールしてラウラを避けたのか?』

 答えは、本当は分かっていた。
 ただの偶然でこんな事は普通出来ない。

 ウルも、ヴァルザックの言いたいことを何となく察した。

 恐らく、自分は魔術師なのだろう…。
 そして、魔法を使うことによって、それを期に記憶が戻ったのではないか、と。

 僅かに沈黙し、答えた。

「記憶……と言うのか、まだ昔の事は思い出せない……が、確かにこれは俺の意志でやったことだ」

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