「良いじゃないですか、別に」

 極力明るい声で、レナが言う。

 上を向いたまま。今下を向けば、涙がこぼれてしまう。

「良いじゃないですか。だって、記憶無いんですよ? そんな状態でいきなりあんな沢山の敵を前にして「戦え」なんて、無理に決まってるじゃないですか」

 驚いた表情で顔を上げるウル。

 そんなウルを視界の端に捉えたまま、それでもウルの方を見ることなく、レナは言葉を続けた。

「私達は、ウルさんを戦わせる為にここへ来たのではありません。無くした記憶を取り戻す為に来たんです。戦えようが戦えまいが、そんなの関係無いです」

 ゆっくり瞳を閉じるレナ。

 まだ泣けない。
 泣くのは、全てが終わってから。

 自分の気持ちを落ち着けるように、レナは心の中で繰り返し呟いた。

 全てが終わったら、その時は……──。

 心の中で小さな決意を固めて瞳を開く。
 そして、ウルに向かって鮮やかな笑顔を見せた。

「貴方が、「ウル・マーロウ」と言う人間だからこそ、私達は力の限り助けたいと思うんです。だから…、気に病まないで?」

 レナの言葉を、少し離れた所で聞いていたキスティンとクレイグの顔にも、小さな笑みが浮かぶ。

 丁度その時、辺りの様子を見に行っていたヴァルザックとラーマが戻ってきた。

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