ヴァルザックは、高い空でアクロバット飛行をした。

 人間に告げる「さようなら」の代わりとばかりに。まるで、自分の姿を人間の目に焼き付けるように。

 夕焼けの中、三分程の短いアクロバット飛行を終え、一直線に北へ向かった。

 早く戻らなければ、北の山に戻る頃には深夜になる。ある程度は寝なくても平気だが、この二週間は昼夜問わずに襲い来るモンスターの撃退で一睡もしていない。

 時間が許すなら少しくらいは眠りたい。

 全力で飛行するヴァルザックが、突如ビクンッと体を震わせた。

 血が騒ぐ。嫌な感覚ではなく、むしろ心が落ち着くような……。

 近くにドラゴンが……仲間がいる。

 すでに暗くなり始めた空の上で止まり、辺りを見渡す。

 東の遙か遠くで何かが光った。

 星かと思ったが、それはゆっくりと移動している。

 その動く光りはヴァルザックに気づいたのか、北に向かっていた進路を変えて近づいてきた。

 普段、常に単独行動をするドラゴン。ヴァルザックも例外ではなく、近づいてくる光りがドラゴンだと気づいて体が固くなった。

 白銀に輝く、美しいドラゴンに目を奪われる。

『お前が北の山に住むブルードラゴンか』

 近くまで来たシルバードラゴンは、少し距離をあけて問いかけてきた。

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