蒼いドラゴンは、晴れ渡る大空に溶け込むように舞った。

 遙か眼下に、雪に覆われた山を見下ろしながら。高い空を悠々と飛び進む。

 昼に出発し空が茜色に染まる頃、山から南下した所に小さな集落が見えてきた。ヴァルザックが、そこに向かって高度を落とす。

 集落から少し離れた場所に降り立ち、人間を降ろした。

『ここでお別れだ。無事に帰り着けよ』

 ドラゴンの低い声。

「あぁ、本当に世話になった。また会いに来るって言いたいが、どうせその用事とかが終わったら旅に出るんだろ?」

 ヴァルザックは背伸びをするように、空に向かって体を伸ばした。広げた翼を合わせると、かなりな大きさになる。

『そうだな。その用事が何なのか俺にも分からんが、どうせすぐ終わるだろ』

 人間が笑う。

「何だよ、用事が分かんねぇって」

 人間の笑い顔を見て、ヴァルザックも僅かに笑みを浮かべる。ドラゴンの姿では表情は分からないが。

『呼び出されたのだ、同じドラゴンにな。大事な話があるとか……まぁ、お前たち人間にはあまり関係のない事だろう』

 自分を呼ぶ、血の騒ぎ。
 群れる事のない竜族同士の唯一の通信手段だ。だが、これを使うドラゴンは初めてみる。

「そうか」

 呟く人間に視線を移す。

『お前は不思議な奴だ。元気でな。道中で死ぬなよ』

 そう言い残すと、ヴァルザックは再び大空へ羽撃(はばた)いていった。

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