会見の場所は、ホテルの一室を借りた

多くの記者とカメラマン
テレビの報道陣が室内にごった返していた

椅子に座りきれずに、壁ぎわに多くの人が立っている

俺はスーツに身を包んでいた
薬指にはちゃんと指輪もしている

「時間です」

マネが俺の耳に囁いた

「ああ」

俺は喉を鳴らすと、報道陣の前に姿を見せた

カメラのフラッシュで目がチカチカする

あちこちから、光がまたたき、記者たちのざわめきも聞こえる

ワイドショーの中継をしているアナウンサーの『桜嗣が出てきました』という声も耳に入ってくる

俺は椅子に座ると、テーブルの上にあるマイクに向かって口を開いた

「お忙しいなか、お集まりいただき感謝します
緊急に会見を開きましたのは、みな様もご存じのとおり妻の入院についてです」

俺は室内にいるマスコミに目をやると、またテーブルに視線を戻す

「妻は事故に遭い、子どもを流産しました
離婚するのではないかと、騒がれているようですが、離婚の予定はありません」

俺は言葉を区切ると、報道陣から『浮気は?』と一斉に質問を受けた

「してません……と言って信じていただけるかはわかりませんが、妻を裏切るような行為はしてません」

『スポーツバーでの修羅場が撮影されてるんですよ?』
挙手してから記者の一人が質問をしてきた

「修羅場ではありません
妻の友人と俺の友人とで飲み会をしただけです
そのワンシーンを誰かが持っていたカメラで撮影したのでしょう」

『事故は? あれは夫の浮気を知って店を飛び出した直後だと……』

「事故の詳しい話は、申し訳ありません
俺にもわかりません」

春が突き飛ばしたから事故に遭った

そう言ってしまえば、どんなに気が楽になるのだろう