綺麗な瞳に見とれていた。でも、言わなきゃいけない。

「あの…」

一瞬、戸惑う。
拳を強く握る。
男は黙ったままだ。

「あの、今夜、私を買って貰えませんか!?2万円で。」

男は黙っている。
しかし、その瞳はハッキリと桜香の瞳を見据えている。

沈黙。辺りは暗く静かで自分の心臓の音が男に聞こえてしまっているのではないかと思うぐらいだ。

静まりかえった夜の闇の中で、男の瞳だけが輝いているように見える。
この空気には耐えられない。

「あの…」

沈黙を破るように桜香が話しだそうとした時、男が遮るように言った。

「いいよ。うち来れば?」

桜香の求めていた答えが返ってきた。
しかし、違和感を感じる。この人は、SEXなんて、援助交際なんて、そんなこと求めてないような気がする。
そんなこと考えるだけ無駄だ。そんなことわからないんだから。

「よかったぁ~。私、家出してきて、もうお金もないし、泊まる所もなくて」

「だから援助交際なんだ」

男の冷たい声。

そしてまた沈黙。

しかし、その沈黙を男がすぐに破る。

「歩いて5分ぐらいだから。うち」

さっき冷たいと思った男の声は、優しく聞こえた。