大丈夫、私は強い。
まだ大丈夫。
自分に言い聞かせる。

赤い電車から数人の人が降りてくる。
中年の女性。
老人。
若い男。

桜香はその若い男に注目した。
髪は耳を覆うぐらいの長さ。身長は170ぐらい。服装は黒のジャケットにジーンズ、いたって普通の服装。
しかし、何故か違和感がある。
どこか、他の人にはないものが男にはあった。それが何なのかはわからない。どちらにしろ迷ってる暇などない。きっと、これは最終電車なのだから。

あの男に決めた。

大丈夫、大丈夫。
また心の中で呟きながらゆっくり立ち上がる。座っていた時には感じなかったが、立ってみると風が冷たい。

男が改札を抜けようとしている。

急がなきゃ。
桜香も小走りで改札に向かう。

男の歩調は普通の人より早く感じた。
それに合わせて早歩きになる桜香。

拳を強く握る。

「すいません!!」

男は気付いてないようで振り向かない。

「ねぇ!そこのお兄さん!!」

…一瞬の間を置いて男が振り替える。

男の顔を見た瞬間、男に感じていた違和感が何なのかすぐにわかった。
切れ長の綺麗な瞳。
片方ずつ瞳の色が違う。

なんて綺麗な瞳をしているんだろう。