たった180km。
私の全財産と1日を費やして逃げてきた距離。
この町までほんとに180kmあるのかは知らない。
昔、おじいちゃんとこの町に来た時に、
「おうちからどれくらい遠いの?」
と聞く私におじいちゃんは
「180kmぐらいかなぁ」
と少し寂しそうにいった。
私は180kmがどのくらいの距離かもわからずに、寂しい顔してるおじいちゃんを励まそうと、
「180kmなら近いからすぐ遊びにこれるね」
と言った。
おじいちゃんは何か呟いて、また寂しそうに笑った。
「おじいちゃん、何で寂しそうに笑うの?寂しいの?」
おじいちゃんは、笑顔で私の頭を優しく撫でた。私は心地よくてすぐにおじいちゃんの寂しそうな態度のことを忘れた。


「何でこんなこと思いだしたんだろ…」
そう呟いて小さく笑う。あの時のおじいちゃんと同じ、寂しそうな笑い方で。

深夜の駅のホーム、人はほとんど居ない。
桜香が座っているベンチの前に、赤い電車がゆっくり停まる。
きっと最終電車だろう。
行く場所なんてない。お金も無くなった。
ここにずっと居るわけにはいかない。

膝に置いた拳を強く握る。気合いを入れる時の癖だ。
もっと強く握る。
強く強く。