そして、席に着く前に買った飲料水で喉を潤す。
そう言えば
昔一度あたしがうんと小さな頃、お父さんに連れられ
プラネタリウムを見たような記憶がある。
それまで、散々遊んでもらっていたあたしは
上映が始まる前に寝てしまった。
だから、実質これがあたしにとって初めてのプラネタリウム。
どうせ、今回も
結局最後までぼんやりしたまま終わるだろう。
そう、思っていた。
―――この時までは。
「夜空の散歩はいかがでしたか?またのお越しを、スタッフ一同心よりお待ちしております。」
ありがとうございました、という解説員のアナウンスに
ドーム型の館内は明るさを取り戻す。
幾千もの人工星を隠して。
「…お客様?どうかなさいましたか?」
「……え?」
ふと声を掛けられた方向に視線をあげれば
そこには解説台に立っていた、男のスタッフさんが居た。
年は50歳すぎくらいだろうか。
優しそう、そんなイメージにピッタリな目尻のシワを刻んで
その人は眉を下げて笑う。
「泣かれている方を見たのは、あなたで二人目です。」
そう、あたしは
自分でも気が付かないうちに涙が溢れていたのだ。

