――――大丈夫だから。


彼方の言葉が
胸の奥に染み込んでく。





「……織葉、」

ドームを彼方と出れば
そこで待っていた陽平が、あの日のようにあたしを呼んだ。


ここまで来ても
まだ躊躇してしまう自分が嫌になる。

だけど……。



不安に駆られ
振り返ったあたしに、彼方はほんの少しだけ笑って

小さく頷いた。



もう、逃げないって決めたから。

ちゃんと過去と向き合うって決心したから。




同じく頷いたあたしは
そのまま彼方へ背を向けると、ゆっくり陽平へと歩き出す。


過去へ。
痛みへ、近付いていく。



怖くて、胸がどうしようもなく痛くて。

何度も何度も、足が止まりそうになる。


でも、あたしは真っ直ぐに一度も立ち止まる事なく足を進めた。




踏み出した一歩は、どこへ向かうのか。


不思議なのは
この時、あたしは一度も天塚さんを思い出さなかった。



胸に焼き付いているのは
彼方の、優しい温もりだけだったんだ。