二人きりのドームで
あたしの啜り泣く声だけが響く。

彼方はしばらく続いた沈黙を破って、溜め息混じりに口を開いた。



「…オリは知らないだろうけどさ。」

あたしはその声に耳を澄ませ、溢れる涙を手の甲で拭う。



「あの人、毎日ここに来てたんだよ。」


…え――――?



ボロボロになった顔で見上げれば
彼方は眉根にシワを寄せて、その経緯を話し出した。


「オリから話を聞いた時は正直、最低な奴だと思ってた。」

きっと彼方なりに
あたしに話す事を、今の今まで迷っていたんだろう。


確かめるように言葉を繋いでいく彼方の声は、心なしか小さくて。



「だけどさ、どんな雨の日でも…待ってるんだよ、オリの事。」

「………。」

「今日だって、多分…相当勇気出して来たんだと思う。」


何も言えなかった。

今この場に相応しい言葉が、見つからなかった。



そして、彼方の紡いだ言葉に
あたしは溢れ出る涙を止められなくなったんだ。




「過去と…決別して来いよ、織葉。」


大丈夫だから。



そう言って笑い
あたしを抱き締めた彼方の腕は、やっぱり変わらずに優しくて。



ずっと、誰かにこうして
背中を押して欲しかったんだと、ようやく気が付いた。