一歩踏み出した足が、その声に止まる。

涙で濡れた顔で視線を横に向ければ、久しく会わなかった彼方の姿。



「…彼方、」

口にした名前が、あたしの心を絡ませてゆく。



彼方はあたしから視線を陽平に向け、ペコリと小さく頭を下げた。

あたしはその横顔を
気の抜けた顔で見つめる。



「すいません。ちょっと織葉、借りていいですか?」

「…彼方?」

彼方の言葉の意味が、意図がわからない。


だけど、彼方は陽平から視線を逸らす事なく告げた。




「必ず、連れて戻って来ます。ちゃんと、あなたと話するように俺から言いますんで。」


そう言った彼方に
陽平は困惑した様子で眉を下げる。

だけどしばらくして
納得したのか、一言「…わかりました。」と答えた。



それを聞いて、彼方が再びあたしを見据える。

そして迷いのない声で
「行くぞ。」とあたしの手を引く。



「ちょっと、彼方…っ、」

「いいから、黙ってついて来い。」


その声があまりに力強くて。



引かれる手を、振り解く事すら出来なかった。