「お前らうるさいんだっつーの。」
何騒いでるんだよ、と分厚い参考書を手に眉をひそめた彼方の姿。
首に巻かれた色鮮やかなストール。
最近彼方のトレードマークになってるそれは、深い深い夜空色だった。
実は、あの日以来
会うのはこれが初めてで。
たった3日とは言え、あんな情けない自分をさらけ出したのだ。
今更どう思われようと気にする必要なんてないのかもしれないけど
何となく気恥しくて視線を逸らしたあたしに、口を挟んだのはおきちゃんだった。
「彼方さんっ!聞いて下さいよー!」
「ちょっと!お、おきちゃん!」
「織葉さん、噂のあの人に連絡先教えてもらったんですって!」
……ああああ。
もう、どうしてこの子は…。
溜め息混じりに頭を抱える。
やっぱり話す相手を間違えた、そう思っていると
「噂って…star letterの?」
意外にも話に食い付いた彼方。
戸惑いつつ、彼方を一瞥し
あたしは言い訳をするように呟く。
「教えてもらった訳じゃないんだけど…、」
つい口ごもるあたしは、そのまま視線を床に下げた。
…何となく。
何となく、彼方には聞かれたくなかったから。

