事が動き出したのは
本格的に梅雨入りをした矢先の事だった。



「これ、宅配出来ますか?」



トン、と置かれた天球儀に顔を上げると
そこには絵に描いたような紳士な男の人が、あたしを見下ろしていて。

ミュージアムの商品を陳列していたあたしは
その背の高さに圧倒されながらも、慌てて接客に取り掛かった。


「あ、はい!出来ます!」

「じゃあ、お願いしていいですか?」

「では、こちらで受付致しますのでどうぞ!」


言いながらレジに誘導し
慣れた手付きで宅配用紙とペンを差し出す。

その人は、柔らかく微笑むと
「ありがとう。」と言ってボールペンを用紙へ走らせた。



一方のあたしは、じっと見てるのも失礼かと思い
彼が選んだ天球儀に視線を向ける。



天球儀とは簡単に言ってしまえば、地球儀のようなモノだ。


星や星座、天の赤道や黄道、時圏、等赤緯線などを描き表し

実際の天球での諸現象、例えば天体の出没や高度・方位などを読み取れるようにした装置。


主に、天文学に多く用いられるが
今プラネタリアンにもとても人気があるのだ。


あたしはペンを走らせる彼を一瞥し
気が付かれないように、遠目に彼を観察してみる。


…ぱっと見、天文学者には見えないし
おそらく、プラネタリアンではないだろう。

いや、もしかしたら熱狂的なプラネタリアンかもしれないが
品のあるグレーのスーツに、高級な腕時計。

明らかに、今まで訪れていた類の人とは違う。



…何、してる人なんだろう。