そんな時
ふっと香った甘い匂いに誘われて振り返れば
「あっ、神楽バイバーイ!」
嫌味すら感じさせない可愛い笑顔が、あたしをすり抜けて神楽くんへと向けられていた。
「おう、じゃーな。」
「てか、後ですぐ会うよねー。」
「あ~、確かにな。」
「まっ、じゃあまた後でって事で!」
あいよー、と神楽くんが返事をすると
その子の後ろ姿は遠ざかり、再び訪れた二人の時間。
だけど、あたしは俯いたまま。
思わず、繋いでいた手に力を込めた。
彼女――
香坂 弥生(コウサカ ヤヨイ)ちゃんは
学年で、1・2を争う程の美人さんで。
誰の仕業か、神楽くんは香坂さんと同じクラスなのだ。
それだけならまだしも、彼女は神楽くんと同じカラオケ店でバイトを始めた。
あたしも、神楽くんから誘われ
再びあのカラオケ店でバイトを始めたけれど
何を隠そう、受験生のあたしたち。
神楽くんも香坂さんも
バイトは辞めずに受験するみたいだけど、あたしは親に夏までの期間限定でバイトする事を許されたんだ。
もちろん、神楽くんを信じてるし疑ってる訳じゃない。
でも、でもね…?
あたしがバイトを辞めて
あんな可愛い子が傍に居たら、って不安になるんだよ。
しかも、クラスまで一緒って…。
神様のバカーっ!!!

