ただ、神楽くんには
無理しないで欲しいだけ。
それだけなのに、何で伝わらないんだろう。
「………、」
何で、ちゃんと言葉に出来ないんだろう。
二人の間に流れる空気は、さっきまでとは違い、張り詰めてゆく。
悲しくて
この場に居るのが辛くて。
何も言えない自分が、不甲斐なくて。
ぎゅっと
スカートを握り締めた時。
「…ごめん、」
と、頭上から届いた声。
え―――?
あたしは今にも泣き出しそうな顔で、視線を神楽くんへ持ち上げた。
そこには、ぐしゃぐしゃと頭を掻く神楽くんの姿。
「日和が、俺の事考えて言ってくれてるのはわかってるんだ。」
でも、と神楽くんは続ける。
「これだけは、わかって。」
ポン、と頭に乗せられた手の平。
「俺は、日和と居る時間が一番大切なんだよ。」
「神楽く、」
「だから不安になる事もないし、もし不安なら全部、俺にちゃんと言って。」
な?、と微笑む神楽くんに
心を覆っていた不安が、不思議なくらい引いていくのがわかった。

