いや……いやっ……
あたしに近付く喜一君から、恐怖で後退る。
「……やっ」
声にならない声が、静かな部屋に消えていく。
「凛、怖がらないで」
低い声が
どこかいやらしく、こびりつく嫌な声が。
あたしの体へと、入りこんでる。
こないで……
虚しい願望は、ただ願うだけで、
「大丈夫だよ、凛」
目の前にいる獣には、全く通用するわけがなく。
気付けば、あたしの体は生温い体温に包まれていた。
恐怖で抵抗も、叫ぶこともできなかった。
喜一君の肩ごしに、杏の極上の笑みが、あたしに“終わり”だというのを、
静かに告げていた。
終わってしまった。
何もかも。
いや、もう何もかも終わっていたんだ。
だからこれは、ただのちっぽけな“始まり”でしかないんだ……