「いえ、ちょっと掃除をしてて。うるさかったですよね、すみません」
表情を崩さず、手際よく喜一君は答えた。
やっぱり隣に聞こえてたんだ。
お願い、助けて……
叫びたい気持ちを必死に押さえながらも、今目の前にいる人に悲願する。
が、ドアは閉まっていき、もう駄目だと思ったとき。
「叫び声みたいのも……聞こえたんですけど」
ドアの向こう側の人は言った。
閉じかけていたドアが再び開く。
まだチャンスはある。
今助けを求めれば、助かるかもしれない。
だけどもし失敗したら、この人にも被害が……
そうこうしている内に喜一君は上手いことを言い、話しを丸めていく。
早くしないとっ……!!!
「じゃぁ、またなにかあったら」
待ってっ!!
ドアが閉まっていき、光が徐々に消えていく。
助けてっ!!!!!
あたしの思いは虚しく崩れ、目の前にはただ鉄の扉が立っていた。

