高級住宅街と呼ばれる一角に佇む、見晴らしのよさそうな背の高いマンション。

住み慣れた我が家のはずが一週間帰っていないってだけで、なんだか知らないマンションの前に立っているような気分になる。


俺は小さく息を吐いて、

どうか居ませんように

と祈りながら意を決してオートロックのゲートを開いて中へ入った。



案の定玄関をあけると部屋の中は黒を塗ったように真っ暗で、物音一つしない。

ホッと胸を撫で下ろして俺はすぐ横にあった玄関の電気のスイッチを入れた。


とりあえず借りていたソフトを探そうとリビングへ向かう。


「ゲームゲー……ム……」

安心しきって一人言を口ずさみながらリビングに足を踏み入れた瞬間、俺は思いもよらない光景に目を見開き、言葉を失った。


真っ暗の中、玄関の明かりにぼんやりと照らされて姿を見せたのは、留守だと思っていたはずの


「……さーちゃん?」


髪の毛を乱し、焦点の合っていない目でゆっくりとこっちを振り返られれば、幽霊と見間違ってもおかしくないくらいの様相だった。


「…ど…どしたの?」


動揺しすぎて言葉がどもる。

佐和子の頬には、渇き切った涙の跡の上からまた新しい涙が伝い、ずいぶん長い間そうしていたのか、瞼は赤く痛々しいくらいに腫れ上がっていてまるで別人のようだった。




「…どこ…行ってたの…っ」


弱々しく消えそうな声で言われ

俺の胸が握り潰されたようにギュッと痛む。