弘樹の家はお父さんが単身赴任をしていて現在は妹とお母さんの三人住まい。

お母さんはフードコーディネーターで料理上手だし美人だし、

妹の麻美ちゃんは頭がよくて華道とバレエを習っていてハンパなく上品だ。


しかし弘樹だけがその空間でひどく浮いていて

二人の前では何処か頭が上がらない所があるらしく、見えない圧迫感に肩身の狭い思いをしているようだった。


「ははは。大袈裟だろ」

「大袈裟なもんか。普段は麻美の奴も怪獣みたいにうるせーのに、お前が来てからしおらしくなって気持ち悪ぃったらねーよ」



確かに俺が知る限りではこのふたりはしょっちゅうちょっとした事で喧嘩をしている。

仲がいんだか悪いんだか、って感じだ。




「あっ、そういえば今思い出したけど、お前に貸してたゲーム…早急に返してもらっていい?あれ麻美のなんだよ」

「え……今持ってねーよ」

「ちょっと取ってきてよ、着替え持ってくるついでにさ!ほっとくとまたギャーギャーうっせんだ、アイツ」


まぁ、そろそろ着替えとか取りに行きたいとは思ってたけど…。


「わかった。今日行ってくるよ」


夜の仕事をしている佐和子はたいてい夕方から家を空ける。

まだ合わせる顔がない俺はその時を見計らうかのように夕日が落ちる寸前くらいで弘樹の家を出て、荷物を取りに一週間ぶりの我が家へむかって歩きだしたのだった。