「あの…さ、ごめんな?」

当たり前と言えばそうなのだが、あれから気まずい空気が流れろくに会話も交わしていなかった事に耐えられなくなった俺は、ビンタの一つも覚悟でさっきの粗相に対する謝罪の言葉を口にする。


「う、ん…」

怒るでも、殴るでもなく。

まだ覚めない熱に頬を染めながら、どうしていいのかわからないと言うように佐和子は目を逸らした。


ファーストキスを奪われた中学生じゃあるまいし。

動揺しすぎじゃね?


年上で、しかも水商売をやっている彼女がここまで純粋すぎると

何だか逆に嘘っぽくて苛立ちを感じた。


ひとまず入ったレストラン。

向かい合って座っているのに、会話らしい会話もせず、異様な空気に包まれていたせいで急速に渇いていく喉を潤す為に、俺は目の前の水を一思いに飲み込んだ。


頼んだハンバーグセットはまだ来ない。



「…もう、わかっちゃったと思うんだけどさ」


半ば面倒くさくなって、俺はもう自分の気持ちをぶちまけてしまおうかと口を開いた。


「俺…」

「あのね」


これから、と言うタイミングで今まで黙り込んでいた佐和子が突然言葉を被せてくる。

まるで

その先は言わないで。

とでも言うように。