「まだ起きてたの?」


ちょうど深夜ニ時を過ぎた頃だ。孤独に冷えた寂しい部屋に、待ち焦がれた愛しい人の声が優しく響いたのは。


らしくない派手な髪型にツンとする香水。

アルコール臭を漂わせながら

「先に寝てて良かったのに」

と申し訳なさそうに言うのはいつもの事で。


俺はそれに対して

「…一人じゃ、眠れない」

とむすっとしながら呟き、彼女の方へ手を伸ばす。

当たり前のように取られたその手はすっぽりと彼女を包み込んだ。



彼女、水越佐和子は親父のカノジョ。

まだ正式ではないけれど親父は結婚するつもりでいるらしく、俺の面倒と家の事を佐和子に任せていた。


「親父今日も帰れないって。メールあった」

「そっか」


親父が帰ってこないなんて珍しいことじゃないのに、それを聞かされるたびに佐和子は何処か淋しげに笑う。

俺の存在が少しでもその寂しさを紛らわせてあげられていたらいいんだけど

きっと俺は

“和幸さんの息子”

としか見られていないんだろうな…。