『……留美はもう、こちらには戻りませんけど』
………は!?
戻らないって…
どういう事だ?
「えーっと…あの…それはどういう事でしょうか…?」
声が震えた。
『…聞いてませんか?あの子は、この家を出て行ったんです』
は、え…?
出ていった…?
「それ…っ、いつの話ですか!?」
『もう一年も前ですけど…』
一年前だぁ!?
それって俺が高校入学した頃じゃん!!
「行き先はわかりませんか!?昨日から連絡が取れないんです!」
その事実は元々混乱していた俺の頭を更なる混乱の渦に巻き込んで
冷静さを失った俺はインターホンにかじりつきながら声を荒げた。
『さぁ…、もう私たちはあの子たちと関係ないので…』
あの子たち…?
もしかして、弟さんも一緒に出てったってことか…?
「関係ないってことないでしょ、親なんだから!」
まるで近所のおばさんが噂してるときのそれのように他人行儀な態度の女に、俺は苛立ちを覚える。
『とにかくもう、何もお答えする事はありませんので』
向こうも頭きたのか、強い口調でそう言うと、インターホンの通信は一方的に断たれてしまった。
くそっ…
もう何がどうなってんのかわけわかんねぇ…
一年前に出て行ったなら、なんでそれを俺に言わないんだよ?
ふいに
“騙されてんじゃね?”
という晴雄の言葉が
頭を過ぎる。
こんな時だからこそ
余計に真実味を増して感じた。
い…いや。
まだそうと決まった訳じゃない。
俺は、悪い方向へ向かおうとする意識をあと一歩というところでつなぎ止め、首を振って冷静な位置まで持って行き、体制を整えた。

