君にうたう

ハッ

なんだ、夢か…。
あたしはいつものように、ムクッと起き上がった。
今日は珍しく、全速力でダッシュしなくても間に合いそうだ。

適当に朝食を済ませ、家を出た。
今日は公園を通って行こうかな。

やわらかな日射しが新緑の木々を照らしている。
あたしは眩しくて目を細めた。
もうすぐ夏だな…。

「茅衣?」

名前を呼ばれた。

「啓太」

うそ。夢に出てきた彼だ。やっぱり優しく微笑んでいる。
まさか、これも夢なの?
あたしは目をこすった。

「久しぶりだね。元気だった?」

啓太が聞いてきた。

「これは、夢?」

「何言ってるの茅衣。夢なんかじゃないよ。」

クスクスと笑う啓太。
ああ、そっか。これは夢じゃないんだ。
全部、現実なんだ。

「啓太は毎朝ここを通って行くの?」

啓太が通っている南高は、あたしたたが通っている西高と反対方向のはずだ。

「うん、そうだよ。僕の家は西山の方にあるからね。」

そうだった。
啓太の家は、西高にとても近いんだ。だから、あたしは啓太も西高に進学するものだと思っていたんだった。

ふと、今朝の夢がつながっているような気がした。

「昨日、舞に会ったんだ。雰囲気とか前と全然変わってて、びっくりしたよ。でも茅衣は変わらないね。」
なにそれ。あたしはガキのまんまだって言いたいの?ってか、ストップ。

「舞と会ったの?」

「うん。」

昨日舞が言ってた用事ってそれか。
でもどうして教えてくれなかったんだろう?

「何話したの?」

ちょっと気になったから聞いてみた。

「うーん…いろいろ?」

いろいろ…ね。
そこには、2人の秘密という意味わ含んでいそうで、心の奥がチクッとした。