医者はまず、驚愕をその小皺の増えた表情に映し、次に困惑、絶望、と実に様々な感情を表に出してくれた。この医者、絶対に嘘をつくのは苦手だな。

「一時的な記憶障害かもしれない。しばらく様子を見たいところだが……困ったな。最悪の状況だ」

何が最悪なんだ?

医者にそう問いたいが、苦悩に満ちた表情を見ていると、聞くに聞けない。

医者はしばらくぶつぶつと何か呟き、やがて思い出したようにはっとして俺を見た。

「そうだ……確か、友達が来ると耳にしたんだ。君の、高校での友達が」

「友達……?」

誰だろう。友人の顔も名前も思い出せない。

その時、ノック音が静かな部屋に響いた。

「どうぞ」

医者は暗い声でそう言うと、扉がゆっくり開き、高校生ぐらいの女性が入ってきた。か……可愛いじゃないか。

「き、君! まだ勝手に歩き出したら駄目だと言っただろう!」

なんだ、医者の知り合いか。

なぜかほんの少し落胆したところに、信じられない言葉が耳に入った。

「あたし……どうしてもその人に謝りたいんです!」

その人って……俺? 何かしたっけ?

当然思い出せるわけもなく、ただその女性が頭を深々と下げるのを、他人事のように見ていた。