目が覚めたら、ある病院の一室にいた。

清潔な白に囲まれた部屋に、ひとつのベッドと小さなテレビが置いてある。


俺はそのベッドに寝転がっていた。

右を向くと、細いチューブが腕に繋がっていた。点滴をされているようだ――なぜ?


ゆっくりと体を起こした。

小さな窓から、柔らかな光が入り込んでくる。


辺りを見回すが、がらんとしていて、どうやら俺一人の病室のようだ。


……何で俺はこんなところに? いや、それ以前に、俺は誰なんだ?


思い出そうとすればするほど、頭の中に靄がかかり、思考を切断する。



無理に考えずにぼーっとしていると、不意に扉が開いた。

「む、気が付いたかね」

白衣を纏った初老越えぐらいのおじさんが入ってきた。恐らく医者だろう。

「もう少し寝てなさい。起き上がるにはまだ早い」

穏やかに布団を俺に掛け、にこやかに言う医者。

「気分はどうだい?」

「気分って……よくわかんないな。何でここにいるのかすらわからないんだから」

「……何だって?」

おいおい、医者が難聴でどーすんだよ。
医者は目を大きく見開いて、俺の答えを待っている。俺はため息をついてとんでもない事を口にした。

「何もわからない。何も思い出せない。俺……誰だっけ?」