泣きそうになるのをこらえた。 あたしが泣くのはズルいと思ったから。 本当に泣きたいのは、篁くんだと思ったから。 だけど、篁くんはあたしを自分から離して半回転させると、 「……ありがと」 泣くどころか微笑んで、お礼を言ってくれた。 ふぅ、とひとつ息をついて、 あたしに触れていた両手を衣装であるカーゴパンツのポケットに突っ込んで、ドアに寄りかかる。 そして、あたしに向かって、その漆黒の瞳を細めて笑った。