藤岡くんのあとを追うように教室へ戻ると、そこには机にへばりついてうんうんと唸っている翼の姿が。
のぞき込んでみると、広げられているのは英語の教科書だった。
「彼は……だからこの彼って誰だっつーの」
「Tomじゃないの?」
文の一番最初に『彼はトムです』って書いてある。
私が言うと、翼は勢いよく顔をあげた。
あまりに俊敏な動きだったから驚く。
「ああ、絢。帰ってきてたんか」
そしてあたしの姿を見ると、ちょっと残念そうに口を曲げた。
「翼、だれか待ってるの?」
「はッ!? 何でだよ!!」
「え……だって、あ、もしかして右京さん?」
あたしが手をたたくと、翼は目を細めて「ケッ」と吐き捨てる。
そして握ったこぶしを力強く机に叩きつけた。


